[ chapter: 5/5 ]

5. 交渉

 おめでとう!数々の厳しい試練をパスした暁には、オファーがキミを待っている。アメリカでのキャリアまでもう一息だ。しかし、まだ終わっていない。交渉という重要な作業が残っている。どんなにいい会社でも、待遇でも興奮して直ぐに受け取ってはいけない。最低限の交渉の姿勢はもはや作法であると言ってもよい。以下は実経験に基づく簡単なガイドラインである。


5-1. 口頭によるオファー

 最終面接が終わったら、マイクロソフトのようにその場でオファーを貰うこともあるし、数日後に電話で言い渡されることもある。俺の場合は最終面接の翌日にサンキューレターを送付した直後に「今すぐ電話するように」という返信があり、かけると"Ken, you made a good impression. We can make an offer."と言われた。必ずお礼を述べ、テンション高めでいくこと。俺の場合、この会社を知らなかったこともあり、このオファーが自分に取ってよいものなのか、他にもいい会社からオファーをもらえるのではないかという思いがあった為に全く嬉しそうなトーンでなかった為、「普通は我々がオファーをすれば喜ぶものなのに、お前は全く嬉しそうではないではないか」と言われてしまった。口頭でオファーを貰ったら、俺の場合その後何回かに分けて下記について意識合わせし、お互いのギャップを埋めて行った。毎回、電話がある度にどのように話を展開するか事前に用意しておくこと(他社の選考プロセス状況をどう説明するか、いつ頃オファーを受け取ると申し出るか、等々)。


5-1-1. 給与、ボーナス

 口頭でオファーを貰った後、必ず給与交渉が開始される。これは全ての就職本に書いてあることだが、給与に関する話題はオファーを貰うまで一切自分からはするな。これはアメリカでは鉄則だ。上海HPでは最初の面接から始終給与に関する話題ばかりだったが(まぁ、中国は賃金が低いから最初に断っておく必要があるのだろう)、アメリカでは絶対に自分からしないこと。すれば何よりも「この人はアメリカの就職活動の作法を心得ていないな」と思われること必至だ。HRは交渉を何度もやっているからプロだ。まず、「給与についてどう思っているんだ」と訊いてくる。しかし、ここでいきなり金額を言わないこと。まずは、「範囲を教えて欲しい」と言う事。これも常識だ。そうすれば相手も「おっ、こいつは作法を心得ているな」と思うだろう。この質問に対する答えは必ず用意してある。事前に前の会社での年俸を提示しているはずだから、それに多少プラスして提示してくるかも知れない。思いの他良くても、まずはまだ飲み込むな。オファーを取り消されない程度に、フレンドリーマナーで話し合うこと。外国人は特に交渉の余地があることを知らずに最初に飲み込んでしまう人が多い、という記事を読んだ。給与の低い発展途上国から来たならまだしも、俺達日本人にとっては前の給与の額はそれなりに比較の対象になるはず。新卒で給与がfixedの場合を除き、とにかく上を目指すこと。場合によっては他の会社からのオファーをちらつかせても良い。自分の価値を高め、給与交渉を優位に導くことも出来る。ただし、やり過ぎると全てを失う可能性もあるのでそのへんは空気を読むこと。


5-1-2. H-1Bビザ

 俺達に取って最大の懸念事はH-1Bビザのはずだ。俺の会社の場合、給与交渉の前に快くサポートする、と明言してくれたのでここは問題にならなかった。グレーゾーンの場合は必ず確かめること。例えばしばらく勤務した後、成績が良ければH-1Bビザをサポートする、という約束を申し入れてみる手もあるだろう。


5-1-3. 福利厚生

 俺の場合はこちらからお願いしなくても相手からすぐに福利厚生に関する資料が一式送られて来た。日本では就業前に福利厚生をチェックするなんて考えられないがこちらでは会社によって異なるので目を通しておくこと。保険(医療保険、歯科保険、眼科保険)、ストックオプション、401K、休暇、学校の授業料補填、などに関する記載があるので目を通そう。


5-1-4. 決断までの猶予

 実は、俺にとって給与よりも重大だったのはこっちだ。というのは、あまりに事がとんとん拍子で進んでしまった為、一次面接のあった8/10から最終の四次面接を経てオファーに至った8/20までの間、たったの10日間だったからだ。応募作業を開始してまだ一ヶ月程度だった為、このオファーがどのくらいのグッドディールなのかがわからなかった。もっと有名企業からオファーがあるのではないか。判断出来ない。9/14から働いて欲しい、とは再三言われていたが、一、二週間で急いで決断してしまうと後悔するかも知れない、と思ったのだ。そこで、危険を覚悟で9月からは働けないことを伝えた。HRはかなり声を荒げたが、このオファーを失ってもいいという覚悟で「他にも選考プロセス中の会社が5社ある。これらを完結させないことには、判断出来ない」と伝えた。今考えるとかなり危険な発言だが、運よく9月末までなんと5週間も待ってくれることになった。その後、GE、QUALCOMMやAmazon.com、上海HPなど大企業から連絡があったから、俺の決断は正しかった。結果的によりよい会社からのオファーを得ることは出来なかったものの、もしオファーを受け取っていたら「ひょっとするとQUALCOMMに行けたかも知れないのに」と後悔していただろう。出来ることを全てやって、最終的に得たものの中でベストなものを取る。そうすれば、如何なる会社であったとしても受け入れることが出来るだろう。通常は会社は決断に一週間程度しか待ってくれない。しかし、何事も交渉次第だということを証明した。


5-1-5. バックグラウンドチェック

 俺に取って多少緊張したのがこのバックグラウンドチェックだ。アメリカでは、入社時に必ず調査会社に依頼して犯罪歴、破産歴、学歴、クレジットカードのヒストリー、過去七年の住所、前の会社での評価などのバックグラウンドチェックを行う。俺はアメリカに来て一年だし、何もやましいことはしていないのだが、特に前の会社に連絡を取るという文化が日本にない為受け入れ難いものがある。俺は日本の会社時代は課長や先輩、後輩とも仲良くやっていたから別に良いのだが、アメリカ人はいけしゃーしゃーと英語でメールを送りつけ、下手したら電話して俺の申告している給与が正しいか、仕事内容が履歴書と違いないかをチェックするのである。おいおい。。そんな文化、ねぇよ、うちの国。俺と同じく日本からアメリカに渡った同僚の話では連絡は結局なかった、という人もいた。しかし、俺の会社ではシッカリと年収、雇用年月日と評価、コメントを確認するメールが行ったようだし、更に日本人の嫁さんを持つ社員から日本語で評価を聞く電話連絡までいった。やる会社はやるのだ。あなたは前の会社での年収をいくらで申告しているかは知らないが、全て自己責任の範囲でやること。自分のキャリアなのだからリファレンスをお願いしたからと言って他人に任せっきりにしないで自分の希望を伝えて意識合わせすること。逆に言えば日本人だからこそ柔軟に対応出来ると考えることも出来る。課長、同期、後輩、シルバーウィーク中にご対応頂きどうも有難うございました。


5-2. 書面でのオファー

 口頭でいくらオファーを貰っても、それは効力を持たない。交渉が済み、バックグラウンドチェックも無事に完了したら、書面でのオファーレターをもらうことになる。俺の場合はFedExで送ってもらいつつ、それも時間がかかるというのでPDF版のレターを印刷してサインしてスキャンしたものを送るように言われた。正式オファーには給与の他、福利厚生や会社の規約概要みたいなものが含まれている。全て目を通し、問題がなければサインをしよう。H-1Bビザやグリーンカードのサポートに関して多少会社に不安があるなら書面で求めておくのも良い。これで全て完了だ。おめでとう、輝かしい未来に乾杯だ。Welcome Aboard!!


[ chapter: 5/5 ]

inserted by FC2 system